折々のお料理

飽くなき食欲が生んだ料理や食の研究

包丁を研ぐ

料理に欠かせないのが包丁。

料理人にとって包丁がいかに大事か、今さら言うまでもないだろう。
食材を切り調理の下ごしらえにおいて、この包丁が切れるか切れないかでその効率は大きく異なる。

主婦もまた同じ。
料理は毎日のことであり、家庭にある包丁が切れるのか切れないのかで料理の楽しさも変わる。

切れない包丁は余計な力が必要になり、よく切れる包丁よりも危険だというのはあまりにも有名な話。
よく切れる包丁での切り口はきれいで、料理の味にまで影響が出てしまうという。




かなり昔のことになるがしぶーのは学生時代、近所の飲食店でバイトをしていた。
料理屋では切る量も半端なく、スピードも要求されるので、包丁の切れ味が命。
そこで研ぎを担当させてもらっていたが、そのつてで知り合いの奥様方より包丁を研いで欲しいとの依頼があった。


なにやら集ってきた。


なかなか手ごわそうな包丁たちが現れた。


右から

【ぺティナイフ】
この手の洋包丁は和包丁とは逆の方向に使うことを想定されている。
例えば鉛筆を削る時のように刃を外に向けて押して切るのではなく、りんごの皮むきのように刃を手前に向けて使う。
そのために包丁の銘の入った表面が逆になっていて、小刃もその方向についているのが普通だ。

 

しかしこのぺティナイフはすでに逆の面にも小刃がついており、いわゆる両刃(もろは)になっていた。


【出刃】
見事に錆びてしまっている。
よくよく見ると刃先に欠けが二箇所。

 

相当手ごわそうだ。


【三徳包丁】
家庭用の万能包丁といえばこの三徳包丁。
見た目はいちばんきれいでどこも問題はなさそうだったが、よく見るとグラインダーで研ごうとした形跡があり、凹んでしまっている。

 

和包丁のような見た目だが切刃や刃文の部分はデザインで、材質はステンレスだろうか。


【牛刀】
刃は薄いので研ぐのは難しくなさそうだ。
平の部分研ごうとした形跡がある。
そこを研いでも切れるようにはなりませんぜ。

 


【柳刃】
なかなか錆びていて手ごわそうな和包丁だ。
刃の欠けが二箇所。
刃が鋭い分だけに欠けやすく、取り扱いには注意がいる。

 

和包丁は錆びやすいので取り扱い注意。
使いっぱなしで放置しておくとこの包丁のようにたちまち錆びてしまう。





さてどうしようか・・・。





研ぎに入る前に、まずは錆びを落とす
サンドペーパー、スチールウール、耐水ペーパーを駆使して赤錆びを落とす。

ちょっとこすっただけではなかなか落ちない。


包丁の形を変えないように、面にあわせて丁寧に削ってゆく。


なんとか表面の錆びは落としたが、所々赤錆が深くまで達しているのは落としきれなかった。

とりあえずここまで落ちたので、いよいよ研ぎに入るとしようか。



一日では到底無理なので毎日少しづつこなしていく。

新聞紙で鞘を作って収めておきました。





しぶーの愛用の砥石たち。

粗目、細目のオイルストーン、超粗目超細目のもの、天然砥石などなど。



砥石は予め水に浸けて、使用前に砥石同士をこすり合わせて平面を出しておく。
そうしないと砥石は磨り減って凹んでゆくので平面に研げなくなってしまう。
時々このすり合わせをして砥石面を修正してやる必要がある。



ゴシゴシと研ぎ、


確かめる。

こんな地道な作業を延々とこなしてゆく。



鉄の包丁を平らに保持して往復させるのは結構な力が要る。
しかも包丁には研いではいけない場所(研いでも意味がない場所)と研がなければ切れるようにならない場所がある。
大胆かつ繊細に、力の入れ所が難しい。


刃物の研ぎ方は、専門の文献を読むかインターネットで検索するとたくさんの情報が容易く手に入る。
しかし方法がわかったからといってすぐに真似が出来るかといえば難しい。
基本的な動作である、砥石に刃物を当て「往復して平面を研ぐ」という動作がなかなかできない。

しかも包丁の刃先はカーブしていて、それに沿って研がないときれいなカーブが崩れてしまう。
刃物の形に合わせて角度を調節しつつ、研ぐ方向(刃先を研ぐのか鎬をそろえるのか)への力加減、すなわち右手の保持にかかっている。





牛刀とぺティナイフはしっかりと小刃をつけて完成。
包丁の身が薄いので刃先から2mmほどの小刃にしました。

あまり急角度だと切れ味はよいが欠けやすくなってしまいます。
ステンレスなのである程度弾力があるが、牛刀は恐らくあらゆる物を切るのに使うと思われるので耐久性も重視しました。



三得はグラインダーで削った凹みは治らず。
ここまで直すと5mmくらい刃を後退させないと無理。

とりあえず日常の使用には全く問題ないのでこのまま使ってもらうことにしました。





今回の研ぎの最大の難関はやはり二本の和包丁。

柳刃は刃先が欠けてボロボロだったので荒い砥石で大まかな形の修正。

この砥石はあっという間に身が擦り減るので慎重にあてなければならない。

必要のないところに余計な傷をつけると修正するのに恐ろしく手間がかかる。

たとえば広い原っぱに深さ10cmのができてしまったとします。
わずか10cmの溝だがこの原っぱを平らにするのは全体の表面を10cm堀下げる必要がある。

一度誤って削ってしまうと埋めることが出来ないので全体まで及んでしまう。



出刃包丁は研いでいる端から錆びてきた。
刀の研ぎ師は錆びないように水に重曹を混ぜてアルカリ水を使うそうです。

サンドペーパーで全体の錆落しをしたので平の部分も研いで形を整えます。

写真では流しの中できれいな状態だが、実際に研いでいる最中は両手が大変なことになっているので写真は撮れず。

砥石で研いでいると出てくる出てくる砥汁はとくそと言って大事な役割があるので洗い流してはいけません。


砥クソ・砥糞・・・・・砥石で物を研いだ時に出る泥状のもの。


まあその方法はよいとしてネーミングのセンスは凄いと思う。





あんれれれ?

平らな砥石で切刃を研いでも鎬(しのぎ)ラインが真っ直ぐに出ない。
どうもおかしいと思ってよくよく観察すると包丁面に凹みがあり、これでは真っ直ぐな線が出るはずもない。
鎬が真っ直ぐになるまで研いで行くとかなり包丁をすり減らす必要が出てくる。

鎬がまっすぐかどうかは直接的には切れ味とは関係ないが、こういうところでB級品として安く売られていくのかと妙に納得してしまったりして。




結局鎬線をそろえるのは断念、小刃はつけずに極力鋭く研ぎました。

ここからは切れ味を重視して細かな砥石で刃先を研いでゆきます。

和包丁は明確に表と裏があり、表10に対して裏が1くらいの割合で研ぎました。



刃先を研ぎ終えたら最終仕上げ、表面が荒れていると錆びやすくなるので極力滑らかにします。


平の部分は5mmほどの大きさにちぎった耐水ペーパーを指につけて磨きました。

地艶・刃艶ごっこ。
鉄の色が浮き立ってきます。
なかなか美しい。



出刃も同じ様にして研ぎ、磨きを行いました。



最後によく洗って全体にうっすらと食用油を塗ってふき取り完成。

見違えるほど美しく、なおかつ切れるようになりました。
これで日々の料理がますます楽しなってくれるといいですね!


包丁をよく切れる上状態で保つには頻繁に研ぐ必要があるが、一度しっかりと形を整えておけば軽く数回の研ぎだけで復活する。


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