折々のお料理
飽くなき食欲が生んだ料理や食の研究 |
イナゴの食べ比べ
イナゴは食べられる昆虫としては全国区でメジャーな存在。
佃煮になったお姿は少し田舎に行けば土産物屋に並んでいて、入手もそう困難ではない。
とは言え、都市部の普通の店で見かけることは非常にまれで、日常から頻繁に食卓に並ぶことはあまりない。
イナゴの佃煮は古来から山形、群馬、長野など、海の少ない地方の貴重な蛋白源として食されてきた歴史があり、イナゴという名前だけあって田んぼで大量発生することから稲作の盛んな地域ほど多く食されてきたに違いない。
蜂の子、ザザムシと並んでメジャーな食用昆虫。
上の写真のように岐阜県土岐市の道の駅で大量に売られていたのだが、パックの大きさが色々あってどれを買おうか迷っていたところ・・・。
なんと産地が微妙に違う!
イナゴの佃煮は見つけ次第買うほど好物なので過去に幾度となく我が家の食卓に上ったが、その産地までは気にしたこともなかった。
買った場所によって味が違ったという記憶もない。
イナゴはイナゴ。
お土産品の類は本来はそのご当地の特産品であるべきなのだが、今や全然違う地域で作られたものがどさくさ紛れに並んでいることも多い。
また、昔は特産品だったが今ではすっかり廃れ、作られる地域がごく限られてしまったものもある。
イナゴに関して言えば、どこで作られていようと全く構わないのだが、イナゴの名産地とか、イナゴの佃煮の老舗とか、聞いた記憶はない。
産地によって味が違うのか?
検証してみました。
注意!
虫の苦手な方には少々厳しい画像が連続しますので閲覧をお控えください。
道の駅「美濃焼き街道」には4箇所の産地のものが売られていました。
今回ゴットしたのはそのうちの3種類。
もう一つはパックが大きすぎてちょっと買うのをためらったからだ。
今思えば買えばよかったと後悔している。
産地はそれぞれ岐阜県の可児市、長野県の伊那市、岐阜県の中津川市で作られている。
正直、こんなに近くで作られていたとは思わなかった。
どちらかと言うとイナゴはゲテモノと言うイメージがあったが実はメジャーな食材なのか?
値段が390円、365円、385円と微妙に違いがあり、重量も100g、90g、90gだった。
もしかして時価?
材料は基本的に原料のイナゴと醤油、甘みの糖類やみりんなど、調味料など。
要するに佃煮というやつか。
書いてあるがな。
どうせなら全国区で比べてみたい気がするが、そうそう全国のイナゴは手に入るわけでもなく、あちこち集めているうちに次々食ってしまい比較にならないことは目に見えている。
名古屋のういろうですら店によって味が違うので、この3つでもきっと違いがあるに違いない。
香ばしく佃煮にされたイナゴはその食感からオカエビとの異名を持っている。
パリッとした歯ごたえがあり、万人に受けそうなクセのない味は非常に美味。
見た目が少々アレだが。
あったかご飯に香ばしいイナゴは最高。
しかし、イナゴの味がどんなものかと問われると説明に困る。
佃煮にされたイナゴは甘しょっぱいのだが、イナゴ自体の味はほとんど主張がないといってもいい。
何かに似ているような、しかし他に喩えようのないような味。
まあフカヒレやウナギの味を言葉で説明するのも難しいようなものだろうか。
判りやすく並べてみました。
上から長野県伊那産、下段右が岐阜県中津川産、左が岐阜県可児産
伊那産
可児産 中津川産
微妙に色合いが違っている。
伊那産のものは最も色が黒く、続いて可児産、中津川産は色が薄い。
なお、ここで言う産地は製造された場所ということで、原料のイナゴの産地とは限らない。
イナゴとバッタというのは同じ様に見えて違うものらしい。
イナゴは生物学的には「節足動物門・昆虫網・バッタ目・バッタ亜目・イナゴ科」ということなのだそうで、
バッタは強靭な後ろ足でジャンプするのが得意だが、イナゴは羽を持ち、長距離を飛んで移動することが出来る。
国産の食用イナゴの大部分を占めている「コバネイナゴ」、最大の産地は仙台平野だそうで、1シーズンに100トンを超えるという。
それでも足りない分は韓国や中国からも輸入されているらしい。
てっきり狭い範囲の郷土料理、というイメージがあったが、意外とたくさん食われているようだ。
イナゴの佃煮は、かつては各家庭でもよく作られていたありふれた料理なのだそうだ。
しかも、養殖されてものではなく天然物だったんですね・・・。
イナゴの佃煮の作り方を調べて、幾つかのサイトからその作り方をまとめてみました。
イナゴをとってきて、糞を出しきるため生きたまま一晩放置する。
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生きたまま熱湯に放り込む。
すかさず蓋を閉めないと飛び跳ねて逃げる。
(ぎゃあぁぁぁぁぁ!)
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イナゴを布製の袋に入れそのまま茹でる方法もあるとか。
火が通るとエビのように赤くなるそうです。
(ひぃぃぃぃぃぃぃっ!)
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茹だったら水洗いしてごみを取り除く。
トゲのある足を取り除く場合もある。
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なべに水・しょうゆ・酒・砂糖・みりん少々とイナゴを入れ30〜40分ほど煮る。
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煮詰めたらサラダ油を足して照りが出るまで炒めて出来上がり。
少々残酷だが、イナゴは大量発生して群れを成して稲を食い荒らす害虫。
稲を食われた代わりにイナゴを食ってしまえ!という発想だったのだろうか。
さて、
製法がわかったところで、早速いただいちまいましょう。
伊那産
ひときわ色が黒いだけあって、醤油が濃い。
メシのおかずには最高。
たまに不気味なほどでかいのが混じっている。
中津川産
色が薄く乾いているような見た目だが、かといって薄味と言うわけでもない。
表面が乾いている分だけパリッとした歯ごたえがある。
この中では最も虫感が強い。
可児産
表面が照り照りで味が甘い。
他に比べてやや歯ざわりが柔らかい気がする。
全体的に大きいのが多かったが、たまたまかもしれない。
噛むほどに広がるイナゴ味、どこなく稲の味がした。
大きさはばらばら、特に選別はしていない模様。
不揃いということは、やはり野に出て捕まえてきたものなのだろうか?
可児産のものは足がもげているのも多く(わざわざ取り除いているのか?)、なんとなく煮込み時間が長いような印象を受けた。
足ーーーー!
あまりの美味さに何の疑問もなく食っちまっていたが、ふと我に返るとこれが虫だということを思い出す。
虫、美味い!
3種類を比べてみて、確かに違いがあったのだが・・・
とりあえずどれもイナゴ味、その差は僅かと言ってもよく、特に産地にこだわる必要もない、というのが最終結論だった。