岩古谷山に登ってきました。


 愛知県の東部、奥三河の田口という所ににある岩古谷山。標高799mと決して高い山ではないが、東海自然歩道の三大難所と言われ、険しい岩場もあり変化に富んだ登山道が人気がある。

 登山と言うと、本格的に山歩きをしている人からは笑われるかもしれない。分類としては低山ハイクのレベルと言ってもいいだろう。しかしいくら田舎育ちの野生児だったしぶーのでも、日ごろ運動不足からしてこの程度でも立派な登山、いかに低くとも山は決して侮れない。

 かつて奥三河を観光した帰り際、ふと出来心で鳳来湖のほとりにある乳岩(ちいわ)峡に立ち寄ったことがある。低山ハイクのガイドブックにも載っていたのでどんな山かは知っていたつもりだったが、「急な階段を一気に登る」とか「一周60分のコース」とかをうかつに信じたのがいけなかった。ガイドブックを執筆されているのは当然山歩きに充分経験のある健脚の人。日ごろアスファルトの上しか歩かず駅の階段すらエスカレーターを利用するひ弱な足とはわけが違う。
 ほんの気軽な気持ちで望んだがいきなり現れた「急な階段」は、岩に張り付いたほぼ垂直な梯子がいくつも続き、何とか登ったはいいが引き返すわけには行かず(梯子は下るほうが怖い)、ひいひい言いながら一周した覚えがある。しかも雨の中(この時点でいかに無謀かがわかる)。

 そして同じガイドブックにもこの岩古谷山は出ており、険しいコースとして取り上げられている。

いつかは登ってみたかった山。

そしていよいよ念願の岩古谷山に挑む!



早朝、まだ暗いうちから「にゃく、にゃく」とごはんを握る音。


ある意味最も楽しい時間



AM5時30分。爽やかな朝日の中、車でひたすら田舎方面へ向かう。日中は焼けるような高温でうんざりするような毎日だが、早朝はすこぶる気持ちがいい。

喜びもつかの間、朝日がまぶしい・・・・。信号が見えん・・・。


この日、天気予報では曇り。

しかし山間部に入ると細かい雨が降ってきた。

しぶーの夫婦で山に行く時にはかなりの確立で雨が降る。それまで晴れていたのにいきなりの雷雨になったりすることも多かった。

そもそも山に天気は変わりやすいのでさして気にもしていないが、山と呼べないような所でもよく雨に祟られる。

どちらかが世間で言う雨男か雨女なのだろうか?


登山道入り口についた頃には幸い雨はやんでいた。


風光明媚な所

田口にある和市というバス停の横が登山口になっている。時間が早いせいか他に車は一台もない。

本当に登っていいのか?というような民家の横を歩きます。


それらしくなってまいりました。

草を掻き分けて歩いていると、程なく薄暗い林の中へ突入。しばらくはこのような道が延々と続きます。
この辺りは13曲がりと呼ばれ、ジグザグに林の中を緩やかに登ってゆきます。

見晴らしはほとんどなく、変化のない道をひたすら登り続けます。

歩いていると蜂だかアブだか顔の周りをブンブンと飛び回っていてうっとうしい・・・。
我々が本日の第一登山者と見えて、登山道にはくもの巣が横切っている。手ごろな木の枝で払いながら進む。

勾配は緩やかだが長いので結構きつい。
早くも汗が滝のように出る。
日ごろの運動不足が身に染みてわかる。
無理をせぬように、ダメージが残らないように、休憩を挟みながらできるだけゆっくり登る。




およそ30分くらい登っただろうか・・・

登るにしたがって日の光がさしてきた。林の中に風も抜けてきて爽やかだ。



汗だくになりながら尾根の上まで出るとひと段落。そこにはベンチとテーブルがあり休憩ができるようになっている。
峠の案内看板があった。昔は峠を挟んで両側の集落を結ぶ重要な道だったとか。


その横からはさらに急な階段が見えている。
今までの道は「昔の街道」(生活に必要あって造られた道)。
ここから先は山頂を目指す「登山道」(暮らしてゆくにはどうでもいい道)。


階段を登ると平坦な森の中の小道、爽やかな朝の木漏れ日の中進んでゆく。
涼しい風が抜けるので歩きやすい。



木々の間からなにやら大きな岩山が覗く。でかい・・・。なかなかの絶景だ。


突然道が途絶えた。なにやら怪しい物が見える。
ここここれはもしかして・・・・・。




いきなり視界が開け、正面にはどーんと大きな岩山がそびえる。見上げるのに首が痛くなるほどの高さだ。

どーん



そして足元を見ると・・・。

ひいーーーー!!

何とも急角度な階段!ほとんど梯子と言ってもいい!



大方の予想どうり・・・・



何を隠そう実は極度の高所恐怖症である!
そしてこの岩古谷山にはこのような試練が数多く待ち受けていることも事前の調査で知っていた。
己の精神を鍛える意味でも、ここを突破しなければ!



手すりに手をかけて一歩一歩慎重に踏み出す・・・。幸い足元が崩れるような気配はなさそうだが、木でできた手すりは、表面が滑らかすぎて握れない。直径15センチほどの丈夫そうな丸太だが、逆にこの太さでは足を踏み外した時に太すぎて掴むことができない。



ようやく下まで降りきるとすぐに今度はすぐに登りの階段が現れる。
鉄製だが鉄って錆びるとたしかボロボロになるんじゃなかったっけ?

現に所々結構錆びているし、人の作った建造物はいつか壊れるわけだし、その瞬間に立ち会うことも大いにありうる。



この一枚は体を張ったネタである。
というか、ただ登っているだけなのだが、本来ここで振り返る余裕など全くないのであった。(下からたった4〜5段目の所)



階段を登りきると、岩にへばりつくように見るからに頼りなげな通路が現れる。手すりは腰の高さまでしかない。

先ほど見た大きな岩山がちらと思いだされる。自分が今どんな所にいるか冷静に考えると恐ろしい。

木が茂っているから見えないけど、この下って断崖絶壁なんじゃなかったっけ?しかも凄く高い。

手すりは錆びてる上ぐらぐらするし、足元の木もいつ踏み抜くか判らない。四つんばいに近い姿勢になりながらできるだけ体重を4点に分散、

落ちたら死ぬ・・・



岩に直接ポールが固定してあり、手すりとしてワイヤーがついている。
太目のワイヤーはとても頼りになるのだが、いかんせんぐらぐらするポールがあって肝を冷やすことがあった。

この岩の階段、両サイドは断崖絶壁である。右にも左にも後ろにも落ちたら死ぬ。下を見ず、ひたすら前進するしかない。

振り返ると一番最初の試練の梯子が遥か下のほうに見える。
いかに急角度だったかがよく判る。



 もし、手すりや梯子が崩れて落ちたらどうしよう。残された遺族は管理している自治体を相手取って管理責任を問うたりするのか?いや、自ら命の危険をさらす場所に出向いておいてそれはあるまい。自己責任という言葉が思い出された。ここでは手すりなど頼りにしてはいけない。すべて自分の腕力と判断で行かねばならないのだ。

 それにしても、このような山に来るといつも思うのだが、どうしてこのような場所に律儀に手すりや通路がこしらえてあるのだろう?元々は前人未踏な藪や岩山だったはずである。人はそこに山がある以上、道なき道を登り頂上を目指す奇妙な生き物なのだろう。そしてこんな所にまでわざわざ材料を運んで工事をした人々がいると思うと頭が下がる思いである。



岩の上の視界が開けた所に出た。

おおーいい眺めだな〜。

足元が断崖絶壁というのは判ってはいるものの、見ないように、考えないように・・・


あたかもここが山頂のようなビューポイントだが、後ろを振り返ると岩場を下った森の中をさらに続く道が見える。


再び林の中の土の道を進む。さっき見たような光景・・・。この山は岩の部分と土の部分がはっきり分かれている。



ん?なんだこりゃ?

 

こ、国営放送・・・・。
大自然を満喫中に突如現れる電線にちょっと興ざめ・・・。


ん?あれは・・・先が空しか見えない。ひょっとして頂上?

再び岩の上に出た。

おお〜素晴らしい!

180度広がる絶景を眺めながら風に吹かれしばし休憩。

下は見ないぞ・・・。

またもやここが頂上ではなく、再び林の中を歩く。


かなりの廃テイスト漂う建物(トイレ)の脇を抜けるとベンチのある広場へと出た。

 

登山口から90分、岩古谷山登頂成功。
ガイドブックや看板では所要時間40分・・・。


一瞬何の跡かと思ったが、恐らく真ん中の骨にはテーブルがあったと思われる。

周りは木に囲まれて意外と眺めはよくない。ガイドブックに絶景とあるのは途中の岩場のことなのだろう。



  

とりあえずバカなことをやってみる。

極度の疲労と危険高所を通過して興奮していたため、少々おかしくなっていたと思われます。
(真似だけです。破壊活動はしていません。)



登頂してひと段落、持ってきた弁当を開いて宴を始めます。

今は朝の9時
朝飯になってしまいました。

気合を入れて早い時間に登りすぎたようです。
他に朝の運動らしき一組の老夫婦が登ってきましたが、その他には全く人気がありませんでした。

作る時にはこれでもかと言うくらい塩味を効かせたはずなのに、大汗をかいたあとなのでちょうどいい。
塩辛い味噌汁が美味かった(カップはコーヒーではなく味噌汁)。




充分に山頂を満喫した後、ふと妙なことに気がつく。

木々に囲まれた向こう側に、ここよりも高い岩場がかすかに見える。



何故か道が続いてるし・・・

 

本当の山頂はもう少し離れた岩場の上にありました。
360度パノラマですが乗っているのが怖い・・・


三角点?



とりあえずバカなことをやってみる。
極度の疲労と危(以下略)

 




神の怒り(過去の例ではこのような場面で突然の雷雨に見舞われたことが幾度かあった)に触れないうちに下山開始。


 林の中の登山道を下ってゆくと早速次のアトラクション。

 割れ岩というから何かと思ったら、登山道に沿って細長い岩の亀裂があった。
幅は2メートルないくらいだろうか、しかし覗き込むと中は真っ暗で何も見えない。
恐る恐る身を乗り出して覗き込むと、深さは30メートル以上はあろうかというはるか底の方に光が見えた。


物凄く深い


三河の山にはこのような巨岩アトラクションが多い。
中央構造線近い地形の影響もあるのでしょうか?


さらに林の中をゆく。


そしてとうとう期待していた鎖場に出た。

ガイドブックにもその存在は明記されていて、今回の登山の最も大きな試練として考えていた。


じつはここ、ちゃんと迂回路がある。


しかしここまできた以上突破せねばなるまい。


やったろうやないかい!(妙な意地)


意外と鎖が細いし

鎖が太い木にしっかりとくくりつけられているのを確認してイザ下降!

足元が岩場でしっかりしていたのと、周りが木に囲まれていて景色が全く見えなかったのでそれほど恐怖は感じなかった。
目の前に絶景が広がっていたら恐怖が先にたって難しかったかもしれない。(乳岩の時は怖かった)


下から見上げるとたいしたことはない。身軽な人なら余裕だと思う。
とはいえ日常、鎖を頼りに急斜面を降りることなどアスレチックでなければ存在しない。

しかも落ちたら死ぬ。



鎖場を無事クリアしてしばらくゆくと、味のある東屋があった。しばしここで休憩。

木々の間からは遠くの山並みが見え、風が抜けるので爽やかだ。
そのかわり冷静に周りを見ると、この東屋は岩の岬のような所に建てられていて3方が断崖絶壁という素晴らしく恐ろしい場所だった。



ここから下は再び薄暗い林の中を歩く。

下りは結構いいペースで下がってゆく。

ある意味登りよりも足に負担がかかる。



ははははははは!

ヒザ笑いまくり。




急な階段が現れた

急な上に一段がやたらと狭い。あまりの狭さに足のかかとしか乗っからない。


よくもこんな岩場にコンクリート階段を作ったもんだ


さらに暗い鬱蒼とした森の中を下る。足元はコンクリートの階段。
だいぶ下山してきたと見えて、再び顔の周りにアブがたかりだした。
枝で払わないと、くもの巣が顔に引っかかる。

薄暗いジグザグ階段のすぐ両側は切り立った岩肌が迫っている。岩に直接木に根が張っている様子が見られた。

大自然と生命のたくましさがよく判るんだけど・・・




・・・これってヤバいんじゃあないか?






バコン!

時折、山の中に爆音がこだまする。

何?

「狩猟の音?」

いや、銃声ではない。




ごすっ!




木の根によって亀裂が入った岩盤は水を含み、冬場は凍結して割れ、根の成長と共に盛り上がり・・・





見ると足元にはそこかしこに落石のあとが・・・・



ボコッ!

パラパラパラ・・・



ひい〜〜〜っ!
見なかった、聞かなかったことにしよう!
とっとと降りてしまえ!



ある意味今回の登山の中で最も危険な箇所だった気がする。



やがて大きな岩の下をくぐると間もなく・・・


廃墟と化した祠が現れる。


上を見上げるとものすごい高さの断崖絶壁。本来ならここには滝があるらしい。

しかも男滝女滝と二つ並んでいる。もし水量があれば素晴らしい滝になっているだろうに。



だいぶ下山したらしい。この滝より下は下界の道を走る自動車の音が大きく聞こえる。間もなく反対側の登山口が近いことがわかる。



何じゃこりゃ?

岩の下に石像が祭ってあり、先ほどの滝の側にある神社の参道になっているようである。
現在は恐らく点灯しないであろう照明跡が残っていた。


妙な所に出ました


ちょうどトンネルの上の斜面の階段を下り、入り口右側から出てきます。

ここにもバス停があり、ここから車を停めた登山口までバス停1つ分、国道を歩いて戻ります。


いつも思うのだがどうやって滑ればこんな轍ができるのか不思議である。
これでは車が酔っ払って千鳥足。



時はAM11時。ようやく車まで戻ってまいりました。さぞ他の登山客の車があるだろうと思っていたらごらんの有様。
わざわざ炎天下に登山をする人は少ないのだろう・・・。




上半身から滴った汗がえらいことに・・・


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