趣味の木工
趣味と実益を兼ねた木工作業の数々 |
足踏み式基準音発音装置
何やら物々しいお題目だが・・・。
以前に音叉箱を作ったことがある。
音叉は手に持った状態では音はかすかだが、振動する固体に押し当てると増幅されて大きな音がなる。
響かせたい音程に合った適当な大きさの共鳴箱を作ると、見事なほど大きな音が鳴る。
製作した音叉箱は一つは我が家の音楽室で稼動中、残りの二つはとある楽器屋さんの店頭にて活躍中。
そんな中、ギター担当のスタッフからこんな要望があった。
足で踏んで鳴らせないだろうか?
従来の音叉は手に持った撥でポーンと鳴らして、余韻のあるうちに楽器を持って調弦する。
しかし大量の楽器を管理する楽器店ではその労力も惜しい。
ギターを抱えた状態で、足で踏むだけで鳴らせたらかなり楽になる。
というのだ。
というわけで足踏み式の基準音発音装置の開発に着手することに。
原理はピアノの鍵盤のようなもの、コレを足でトンと踏めばハンマーが動き音叉を叩く。
グランドピアノのアクション。
協力:ヤマハミュージックリテイリング名古屋店
アップライトピアノのアクション。
協力:ヤマハミュージックリテイリング名古屋店
いや、無理っす。
ピアノの繊細なタッチを再現するには、やはりこのくらい複雑なアクションが必要になってくる。
できるだけシンプルな構造で出来ないだろうか?
しかも足踏み式ということは床に置いて使うもの、下手をすると蹴っ飛ばされたり踏ん付けられたりもありうる。
足は手の力よりもコントロールが難しいので、それなりに丈夫に作る必要がある。
その前に発音体をどうするか?
音叉の箱を横にして撥で叩く機構を作るのか。
箱自体が結構な大きさなのでペダル機構を入れるとかなりの大きさになってしまう。
ただ音が鳴るだけの巨大なオブジェは現実的ではない。
グロッケン(鉄琴)の音盤のようなものを使えば小型化は可能だ。
ハンマーアクションで鉄琴を叩くなんぞ、まんまチェレスタではないか。
チェレスタ・・・アップライトピアノのような見た目で鍵盤もあるが、弦を叩くのではなく鉄の音盤を叩く。
チャイコフスキーのバレエ組曲「くるみ割り人形」の「金平糖の踊り」でも有名。
さて、そんな立派な音盤は我が家にあるわけもなく、わざわざ仕入れるのにも結構高価だ。
というわけで我が家に転がっていたアルミのパイプを使うとしよう。
ホームセンターで普通に売られているものだ。
アルミのパイプの音程は太さと長さで決まる。
とりあえずひっぱたいてみて、現在の音程と長さの関係を調べる。
ある程度計算で決め、パイプカッターで切っては確かめ、さらに切っては確かめる。
専用の道具を使えば意外と簡単に切れる。
なにせ切り過ぎたら即アウトなので、音程が近くなったら慎重に切ってゆく。
というわけで最終的に決定したのは255mmの長さ。
A=442Hz、たまたまこの太さのこのパイプの寸法なので他に応用は利かないだろう。
縁のバリをとって全体を磨いてきれいにしたところ。
アルミニウムはクレンザーで洗うと全体がつや消しの美しい光沢が出る。
これで発音体は完成。
実験用の台を作りパイプを固定する糸を巻く位置を決めてゆく。
全体の長さの22.4%のところに振動の節があり、そのノーダルポイントに糸を巻くように設計。
適当な木片を使って発音体の試作品が出来ました。
いわゆるアルミパイプ琴というやつです。
ところがです。
寸法も糸を取り付ける位置も計算通りなのに、実際に叩くとかなりうなりが発生する。
楽器的音楽的にはありなのかもしれないが、基準音として使うには音叉のように純度の高い音でないといけない。
つまり「コーン」とか「キーン」といった音程のはっきりした音色が理想だが、明らかに二つの音がうなる「フィヨ〜ン」とい音。
再び糸を外して組みなおす。
すると大丈夫な時もある。
何かが違う、何かが要因で純度の高い音になるかうなりが発生するか、この原因の追究に四苦八苦することになった。
結論から言うと単純なことだった。
パイプを回転させて、円周の叩く位置により音程がかなり変わるということだった。
パイプの純度というか密度というか、円周の精度?が原因だった。
工業的な寸法はしっかりしていても、まさか叩いた音までは考えられてはいまい。
原因がわかったので、このパイプを使ってフレームと殴打装置を作るとしよう。
叩く撥の機構は意外なほど繊細でなければならない。
打楽器は叩くと同時に離さなければ振動を止めてしまう。
撥は叩くがすぐに離れる、という複雑な動きをする機構の設計が必要だ。
というわけでしぶーのオリジナル足踏みパイプ琴の完成。
(まだ仮組み立てなので角を落としていません。)
全長38センチほど、パイプの長さが25.5センチにしてはなかなか小型化できました。
構造はこれでもかというほどシンプルにしました。
蹴っ飛ばそうが踏ん付けようがひっくり返ろうが、簡単に治せます。
そして今回もっとも知恵を絞ったハンマーアクション機構だが・・・。
何だコレはというほど単純な構造。
単純にてこでキーが動き、ハンマーは板ばねで固定、キーが戻るのも自重。
キーは溝で乗っているだけで固定すらしていません。
ハンマーの当たる位置はパイプを回して慎重に合わせてあります。
撥の上部に革や布、ゴムなどを貼れば音色の調整もできる。
この単純な仕組み、意外と侮るなかれ。
ピアノの鍵盤のように連打しても、なかなか反応がいい。
しかも打鍵のスピードによって強弱もつけられるほど優秀だ。
ともすればコレと同じようなものを大量に作って音程ごとに並べれば、演奏可能なトイピアノが出来てしまうほどではないか。
あとは再び分解してフレームの角を落としニスを塗って、キーの下に雑音防止のフェルトを貼って完成。
発音体を鉄琴の音盤などを使えばもっと小型化も可能だと思う。
試作品の段階で実際にギター担当の人に使用してもらったところ、すこぶる便利で大喜びのご様子。
実際にどこかで商品化されないだろうか?
ロイヤルティは売価の5パーセントほどでいかがでしょう。
もしお考えの業者さんがいらっしゃいましたら、連絡お待ちしています!
しかしこれ、絶対音感のある人には不要だもんなぁ・・・。
(2017.11.12)