趣味の木工
趣味と実益を兼ねた木工作業の数々 |
パイナップルウクレレの修理
例のお花見用ウクレレ。
バイオリン族の楽器の構造の勉強を少しだけかじったことがあるしぶーのにとって、ギター族(ウクレレ)の構造は少々疑問を感じてしまう。
楽器自体が常に壊れようとしている方向へ力がかかっている。
表板に直接貼り付けられたブリッジは弦によって常に引っ張られ、剥がれようとする。
強力に接着されていれば剥がれなくとも、ブリッジの後方では常に引っ張られ表板は膨らみ、前方では凹む方向へと力がかかる。
内部の構造にもよるが、長年使用していると多かれ少なかれこのような症状は避けられない。
保存状態が悪かったりするとその機会は早く訪れる。
と言うわけでこのウクレレ、画像ではわかりにくいが表板がかなり落ち込んでしまっている。
表板が凹むとその分弦高が下がってしまうが、その分ブリッジの後方では表板が盛り上がってくるので逆に弦高が上がってしまうこともある。
この楽器は弦高が少し上がった状態でバランスが取れている。
尚、この楽器が変形してしまったのは楽器自体に欠陥があったわけではなく、花見や宴会に持っていって湿気や直射日光を浴びたり炎天下車内に放置したりと、しぶーのがかなり不適切な取り扱いをした結果である事を断言しておく。
もともとサドルをかさ上げした強化版しぶーの仕様だったのも変形を早めた。
弾いていて弦高が上がってきたことは特に気にならなず、弾きにくいとも思わなかった。
それ以上に問題なのは、表板が落ち込みブリッジがネック方向へと傾くと、スケール(弦長)が短くなってしまう。
スケールの短くなった楽器は微妙にハーモニーが崩れ、和音の響きが暗い楽器になってしまう。
そのことは去年のお花見で痛感したことだった。
たとえ宴会であっても、クオリティの低い演奏は人様にお聞かせするべきでなく、ましてや初心者に手渡す楽器とあらばなおさらウクレレの良さが伝わらなければならない。
と、難しいことはともかく、要は凹んだので直す。
さて、トップが落ち込んだ楽器はどうすればよいか?
昔聞いた方法では、ブリッジをはがし、もう少し後方へ貼りなおす方法もあるらしい。
また、くの字に曲がったサドルを作って交換する方法もある。
しかしそれでは凹んだ板はそのままで、スケールのみを補正するやりかただ。
おそらく作りの強くはないこの楽器で行うとさらに変形して、最悪使えなくなってしまう恐れもある。
ここは補強改造手術をして、少々のことではびくともしない鉄のような強いウクレレに生まれ変わらせることにした。
具体的には表板の裏側に補強のためのブレーシングを貼り付ける。
・・・のだが、さてどうしようか。
当然穴からはこの作業は行えないので、一度楽器を解体する必要がある。
バイオリンならば解体することを想定してニカワで接着されているので簡単に解体できる。
あの楽器が長年使用できるのは分解修理がしやすくなっていることも大きい。
ギターやウクレレの場合かなり無理やりではあるが剥がすこともある。
さて、表板を剥がそうか裏板を剥がそうか。
幸いバインディング(縁の補強飾り)は入っていないのでそのまま剥がすことができる。
しかし組み立ては木工ボンドであろうこの楽器、まともに無傷で剥がすにはスチームなどの大掛かりな設備が必要になってくる。
と言うわけで、無理やり剥がすことにしました。
どうせこのままでは演奏できまい→壊れていると考えれば、どのみち壊れれてしまっても惜しくない。
もし壊れてしまったら、その時また考えよう。
こんな時に妙に前向きだ。
しかし去年のお花見で痛感して以来、決心が固まるまで実に一年の歳月がかかっている。
色々忙しかったんだけどね。
実は過去に裏板が剥がれていて直したことがある。
今回もそこを突破口にしようか。
グサっ!
カッターナイフで慎重に、いや大胆に剥がしてゆきます。
傷つけないように慎重に、などとやっていては剥がれない。
もう破壊覚悟でバリバリと剥がしてゆきます。
もう無茶苦茶ですがな。
ある意味合板だからこそできた力技。
薄板の層が剥がれるように分離したので板自体は無事(ボロボロだが)。
単板の場合亀裂が入ることは避けられなかっただろう。(そうなったら裏板ごと交換してしまうが)
向こう側が見える奇妙な光景。
ブリッジの裏にはブレーシングはないく、代わりにブリッジプレートと言っていいのか薄い補強板が貼ってあった。
もちろん通常の使用法ならばこのくらいで十分であり、音響的にもこれが最適なのだろう。
今後の過酷な使用目的を考えると、少々サウンドが犠牲になろうとも耐久性だけは重視したい。
変形してしまった表板は霧吹きで湿らせた後、かまぼこ板をあてがって矯正。
膨らんだ部分は表からあてがって押さえ込みます。
このまま数日間放置、これだけでもかなり直ってきます。
ある程度直ったらブレーシングを貼り付けます。
音響とかそういう観点ではなく単純に補強目的です。
表板はまだフラットではないので半ば無理やり貼り付けます。
3本貼り付けました。
薄板の上から貼るので両端も中央もきちんと接触するように削ってあります。
結構面倒だった。
楽器のスペックからして見合わないほどのゴツい力木なので、確実にサウンドは死ぬ。
なんだこりゃ!?
もうこんな修理はするつもりはないのでとにかく強力に貼り付けます。
金輪際剥がれないようにボンドベちょベちょ計画実行。
修理の時にしか見えない表板の裏側に、ひそかに何かメッセージでも貼ろうかと思ったが、たいした楽器でもないのでやめておいた。
今思えばおまじないとしてオータサンとのツーショット生写真でも貼っとけばよかった。
裏板をできるだけ元通りに貼ってゆきます。
味噌煮込みうどん(完食後)↑
この厚さのクランプが足りないのでガムテープで代用。
無理やり剥がしたのでささくれのようになった木が邪魔して完全にぴったりには難しい。
ささくれをある程度取り除き、本当の意味での再現はあきらめました。
剥がした痕は結構ひどい。
再塗装して綺麗にすることもできなくないが、どうせ宴会用なので見た目は気にしん(しない)。
弦長もおよそ350mmに復活。
表板のたわみはほとんどなくなりました。
表板の凹みが減った分だけサドルが高くなったので少し削って合わせました。
サドルは単純な横一文字。
「音程は演奏者が作るもの」という信念なのでオクターブ補正はしない主義。
音程チェック
4弦の2F→1弦開放、5F→3弦開放、9F→2弦開放
1弦の3F→3弦開放、7F→2弦開放、10F→4弦開放
0002のAm、3000のC、3345のCの響きをチェック
さらに
2弦の3F→4弦開放、5F→1弦開放、8F→3弦開放
3弦の4F→2弦開放、7F→4弦開放、9F→1弦開放
2320のG、2344のEmが綺麗に響くかチェック。
概ね良好。
これが合ってないとソロを弾くにはかなりきつい。
下に行くほど難度が上がる。
ただ、弦が太くなるので理論上は合いにくくなるはず。
ある意味楽器の性能もそうだが、テクニックでどこまでカバーできるかのチェックでもある。
せっかくなのでギヤペグにしてみました。
ノーマルのペグからギヤ式にするには穴を少し拡張する必要があるのでリーマーでぐりぐり、難しい作業ではない。
ギヤをとめるビスの長さが意外とあり、ヘッドを突き抜けないように慎重に下穴を開ける。
完成しました。
しぶーの所有のソプラノウクレレでは初めてのギヤペグです。
調弦の微調整はしやすくなりました。
その反面弦の交換は面倒になりました。
メイン楽器のように頻繁に交換する予定ではないのでこれでよし。
音量は確かに落ちた。
しかし和音の響きが明るくなったので弾いていて心地よい。
音量にエネルギーがとられなくなった分余韻が長くなった感じがする。
音程もまずまずなので、じっくりとソロを弾くに適した楽器が出来上がった。
これからの季節、天気のいい夜には駅前で夕涼みがてら楽しむとしようか。