趣味の木工
趣味と実益を兼ねた木工作業の数々 |
折れたバイオリン弓の接合修理
訳あって、バイオリン弓を修理することになりました。
症状は以前コントラバス弓を接いだのと同じ、ヘッドが飛んだもの。
この弓は通常のバイオリン弓よりも少し短い3/4サイズの物、分数サイズ、つまり子供用の弓。
製作者不明(刻印なし)、ブラジルウッド製、推定価格一万円以下。
いわゆる入門者向けの弓。
通常弓の材料となるのはフェルナンブコという木なのだが、これも広い意味ではブラジルウッドになります。
ブラジルウッドの中で、弓に適した最上質の部分をフェルナンブコと呼んで区別しています。
正直、まともに修理すれば修理代のほうが遥かに高額になります。
というわけでこの弓は修理不能の廃棄品。
ほとんど趣味の木工の餌食。
当然今回もダメモト修理。
きちんと接着できるのか?
完成後、使用に耐えうるのか?
正直やってみなければ判りません。
作業環境を整え、折れた部分の状況を確認します。
この折れ方、修復困難なんてもんじゃあない。
頭の部分だけ飛んだのではなく、棹の部分が毟れるように折れている。
きっと瞬間的な力でスパンと飛んだのではなく、何かに挟むかしてベキベキっとちぎれてしまったのだろうか。
作業しやすいように予め毛を外しておきます。
この先端部分の毛の止め方は、楓の木のクサビで打ち込んで摩擦で止まっているだけなので、引っ張れば抜けてくる。
クサビの穴が絶妙の形になっているので演奏中には抜けずにまっすぐ前に引っ張れば抜けるようになっている。
はずが・・・
抜けん!
何とか力任せに抜きました。
接着してやがる。
とりあえず無傷で何とか抜けましたが、普通は接着されていません。
下手な職人による毛替えや、手間をかけたくない安物の弓は接着剤で固定してしまっている物がある。
つまりこの弓は毛替えを想定しないほど(使い捨て感覚)の安物の弓。
弓の毛の部分は消耗品、演奏して古くなるとだんだん音が出にくくなるので、演奏時間にもよるが半年から1年ほどで交換します。
さらに今回修理を困難にしているのは、
前の持ち主さんが、折れた直後接着にチャレンジして見事に失敗した形跡が。
破断面がまんべんなく接着剤で覆われている状態。
もはやこのままは断面を隙間なく合わせることは不可能。
とにかく接着剤を除去する作業から始めます。
木工用の接着剤らしく、お湯を使って少しずつ溶かしてゆきます。
木の部分が水を吸って膨らんでしまうが、自由水なので後で乾かせば何とかなるだろう・・・。
ともかくこれをせねばこの先修理は不可能なのだから。
少しずつ時間をかけて溶かしながら古い接着剤を除去しました。
隙間に入った所もブラシや筆で断面をひずませないように丁寧に溶かしました。
何とかきれいになりました。
さていよいよ・・・
楽しい楽しいパズルの時間。
千切れた破片同士はもはや剣山を突き合わせるような状態。
完璧に合わさればそれはそれで接着強度は保てるが、一本でもささくれが挟まれば元の長さに戻すことは困難。
ここまでひどい目にあった切断面は当然無事なわけはなく、もはや組み合わせだけで元の形にすることは無理なので、ある程度のところであきらめて削ります。
きれいに合わさらない所は削り、半ば力技で無理やり押さえつけ、なんとか接着しました。
たぶん接着面は完全ではありません。
分数弓(少し短い弓)なので毛の張力が弱く、何とななるかもしれない。
このままでは強度的に弱いので、例により補強材を割り込みます。
毛替え台に固定して縦に切れ目を入れます。
バイオリン弓は細いので難しい。
中心がズレていないか様子を見ながら、少しずつのこぎりを引いてゆきます。
補強材を作り割り込みました。
正直、ほんの少し隙間が開いてしまいましたが、この作業はやり直しが効きません。
隙間はこの後の仕上げの段階で埋め木をしてごまかします。
やすりで大まかに形を整えます。
ブランドもへったくれもない弓なので(弓のヘッドのデザインは作者のオリジナリティが生きる所)、ある程度の形が整ったらよしとします。
とはいえ、手は抜かずにきちんとやってしまう悲しい性・・・。
形が整ったので着色して継ぎ目をごまかします。
水性塗料(油性塗料よりも仕上げは悪いが夏場なら10分程度で乾く)で軽く表面を保護。
質のよい弓なら着色した後に油で磨くだけだが、もともと着色・塗装された弓だったので濃い色に着色してほとんどわからなくなりました。
毛を張って乾燥して完成。