庭野のお薬師さま


幼少の頃の記憶というのは当てにならない場合が多い。

記憶は美化されたり変化することが大抵で、実際に確かめるとかけ離れてしまっているものだ。





山に囲まれた場所にぽつんとあった、小さくて立派なのようなもの。

係の人が説明するにセキュリティ上、扉を開けるとサイレンが鳴るらしい。

との説明の後扉を開け、山間にサイレンが響き渡った。


その中には高さ1mほどの木造の仏像があり、それを囲んで説明を聞いた覚えがある。

歴史的背景は子供には少々難しかったが、「持ち上げると中は空洞」ということだけは覚えている。



幼いしぶーのの隣には母親がいた。
自動車の免許を持たない母なので、マイクロバスのようなもので移動した記憶がある。


恐らく市が主催する見学会のようなものだった。





そしてその記憶にはもう一つセットになったものがある。

場所は同じような周りを山に囲まれた田舎で、古い神社のお堂のようなものがあった。

格子の間から薄暗い中をのぞき込むとそこには世にも奇妙な光景が・・・。

その中の壁にはいくつものめでめを描いた紙が貼られていた。





めでめを描く!?


なんだそのねじ式な世界は。


つげ義春作品「ねじ式」より




それは視力か眼病の願掛けらしい。
だからめの字を書いて奉納すると御利益があるとか。







それにしても珍しい神社もあったものだ。





一体それはどこだったのだろう?







SNSが全盛期の今、そんな面白い神社は誰かが訪ねているに違いない。

と気軽に検索するが・・・。

しかしそれがなかなか出てこない


あの目でめを描くあの紙は幻だったのだろうか?

出来ることなら再び見てみたい。




そしてもう一人の生き証人母親に聞くも、その見学会自体の記憶がない

(ああ、最もよくあるパターンだ)





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「ねじ式」はつげ義春の短編漫画作品。
その奇妙な世界観と支離滅裂なストーリーは多くの読者を得体の知れぬ魅力の虜にした。
その後多くのパロディをも産み出し、後の漫画界に多大な影響を与えた作品ともいえる。

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とにかく本当に訳がわからない。





ということで手替え品替え検索を駆使するとようやく出てきた。


庭野のお薬師さまの名前で親しまれてる木造の国指定重要文化財の薬師如来座像



庭野というのは愛知県新城市にある地名。

地図はYahoo地図より引用



平安時代に繁栄した大脇寺の本尊で嘉応3年(1171年)、仏師頼与の作で、アスナロ材の一木造り(首と胴体が一本に木で造られる)。


かつては木造の薬師堂に保管されていたというが、昭和49年にコンクリートの立派な収蔵庫が完成し移された。



平常時は拝むことが出来ず、毎年4月の第一日曜日に御開帳となり、全国より多くの方々が参拝に訪れるという。



つまりかつてしぶーのはこのご開帳の日の見学会に行ったということになる。


お薬師さまは、昔から病気に悩む人に信仰され、特に眼病に効果があると信じられ、

ひらがなの「め」の字を年の数だけ連続で「め」と大書して、治癒を祈願するとよいとされています。



なんと、昔の記憶の通りではないか。









強い夏の日差しが照りつける午後。







山間の集落をさらに進むと突然現れる。





周囲を見渡すと山だけで何もない場所だ。
人の気配はまったくない。







鳥居があるので神社があるようだが、道路沿いにあるのは集会所か。



あまり使われていないようで廃虚感が漂う。





こちらの神社は中の様子をうかがうと物置のような状態に。
なかなか荒れていて蜘蛛の巣だらけだ。







さらに奥の建物。




蜘蛛の巣だらけで正直近づきたくはないが・・・。




網戸の間から確認すると一応何かが祀られている様子。










さて、これが恐らく古い薬師堂と思われる。
かつてはこの中に木像が納められていたらしい。



めめめの祈願は神社ではなく、如来なので仏様のほうだった。
神社と仏教が同じ場所にあるあたり神仏混合の日本ならでは文化といえる。




この古いお堂と、すぐ左にはコンクリートの頑丈そうな収蔵庫。
ここを開けるとサイレンが鳴るのよね。(今は知らないが)








新しい収蔵庫の扉には安置されている木像の写真が張ってある。



もちろん扉は固く閉ざされたまま。








この古い薬師堂の中に、果たしてめめめの紙は見つかるのか?






格子戸塞がってんじゃん。


ガラスでも網でもなく、木の板で塞がっている。






仕方がないこの穴から中を確認するしかない





ううむむむ・・・・・見えん。





手持ちのライトとカメラのストロボを駆使する。


事前の調査では、現在この古い方の薬師堂には地元の子供たちが作った3体の像が納められているとか。



うーん、暗いな。


どうも今では物置状態になっているようだ。



まあ仕方がない、当の主は隣の立派なコンクリートの収蔵庫の中なのだから。





やはり物置状態っと・・・。




ん?




壁になんかある?






ここここれは!?










めめめめめめめだぁーーーーーっ!!






こちらは



「め」で「メ」か!


よく見ると7才と書いてある。


めの字7つでは「め」にも「目」にもならないので「メ」か。



その幼さで眼病治癒の祈願か・・・。
それとも視力かな・・・。



どの紙も非常に古く、昔の祈願の紙が残っていたという程度か。






ギラギラと照りつける夏の太陽と、気が遠くなるほどうるさい蝉の鳴き声。



ふと、時の流れさえ忘れそうな異空間。






ご開帳が年に一度なので仕方がないが、微妙に管理が放置気味なのは残念だ。


もう少し眼病に対する御利益が広まって、平常時の参拝客が増えてくれるとうれしい。





管理しているのが新城市ならば、あの「めめめの紙」を書いて願掛けしたいのですが・・・と市役所に行けばいいのだろうか。

それとも龍岳院に出向けばよいのか。

龍岳院ウェブサイト・・・お薬師さまのことも出ている

あのお堂の中がめめめめの紙でびっしり埋め尽くされるようなことがあればそれはそれで人々の注目も集まることに違いない。

すごいスポットになりそうだが・・・。


(2019.8.14)


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