幻の東山ドライブコース


名古屋の東に、東山動植物公園と言う巨大な公園があります。
郊外の自然を生かした広い土地に、広大な動物園と植物園を作り、1937年(昭和12年)に開園し、開園当時東洋一の動物園と呼ばれていました。
 太平洋戦争中、全国の動物園で多くの動物が処分される中、国内では唯一となった2頭の象を守り抜き、終戦後にその象を見ようと全国から子供たちを乗せた特別編成の「象列車」が走ったことでも有名。
 全国的にも数少ないコアラのいる動物園(東山動植物園を含め9箇所のみ)としても名が知られ、これにちなんで中日ドラゴンズのマスコットの「ドアラ」も大人気のキャラクター。
 名古屋の都心からも郊外からも地下鉄東山線で気軽にアクセスできる公園として、現在でも市民の憩いの場所となっています。

東山動植物公園HP


こんな話を聞いた・・・。


その彼女は自動車免許取立ての頃、車を運転中、何気に興味本位でいつもの道から遠回りをし、細い路地を抜けある道に迷い込んだ。
その道の名は「東山ドライブコース」


その彼女の証言である。

大通りから東山公園の入り口の脇を抜け、森の中の道を通り、さらに奥に入り込むと道の果てにはロータリーがあった。
そしてそこから奥へ伸びる道に、「東山ドライブコース」という案内表示があった。
免許取立ての彼女にも興味を持たせるのに充分な魅力的ネーミングに誘われるがまま進入した。
一方通行
のその道は、曲がりくねった山道で、星が丘自動車学校付近に抜けていたという。

その道は決して広い道ではなく、東山公園から星が丘に抜けるにはもっと便利な道はある。東山公園〜星が丘間は地下鉄東山線で一駅、東山公園を回り込むように存在したと思われるその道は、抜け道として知っておくと便利な道と言うよりもドライブを楽しむ為のコースと言っていいような遠回りな道のはずである。通ったのもその一度限り、そんなことから「このような道があるもんだ」程度に記憶から薄れていった。




それから十数年後、ふとしたことからその道を思い出し、再びあの道を通ってみようと昔の記憶を頼りに行ってみたのだが・・・。




どうもたどり着けない
かつてその道を通った記憶では、特に複雑な道に迷い込んだ覚えもなく、初心者でもわかりやすい道だったと言う。
しかし何度チャレンジしても不自然にコースアウトしてしまい、どういうわけか記憶にない場所に出てしまうという。
地図を見てもそれらしき道はなく、その入り口すらわからない。
目印であるロータリーも存在せず、案内表示もない。



記憶を辿れば、「東山ドライブコース」の前後の道は現在の道と一致し、まるで「東山ドライブコース」だけが忽然と消えていると言うのだ。

一体あの道は何だったのだろうか?

道路拡張により、道幅や景色が大きく変わってしまったのだろうか?

その女は地元民で、土地鑑がないわけでもなく、ウソやでたらめを言うような女でもない。前後の道の記憶から、初心者ドライバーにありがちな方向音痴で大きな勘違いをしているということもなさそうである。

なにやら狐につままれたような話であるが・・・



にわかには信じがたいそんな奇妙な話、「ああそうですか」と一蹴してしまいたいところだが、ひとまず信じよう。
何故ならばその女はうちの嫁だからである。




寄り道してんじゃねぇよ!






調べてみると、その答えは実にあっさり見つかった。



その昔1980年代、「東山ドライブコース」は現存し、東山公園の来場客が星が丘方向へ帰るのに都合のよい回り道として整備されていたそうです。
「ロータリーを起点に曲がりくねった一方通行の道が東山公園の森の中を抜けていた」という嫁の証言と一致する。
少々遠回りで曲がりくねってはいるが、のんびりと東山公園を大きく迂回して帰るには便利な道である。


しかしその反面、夜になって一般のドライバーの車が途絶えたその道は、走り屋達のテクニックを競う道として有名な道であったという。
週末にはかなりの数の走り屋たちがそのコースに集結していたらしい。

年代から推測すると今の40代(1960代生まれ)くらい、86トレノとかをブイブイいわしていた世代だろうか。


やがて走り屋達の集会もエスカレートし、騒音の苦情や事故が多発したことからその道は完全に封鎖され、今では伝説の道となった。

現在はその道の一部は駐車場となり、大部分が公園内を散策する遊歩道として整備されているらしい。

つまり東山ドライブコースは廃道になったのであった。






かつてのロータリーだった場所は現在「彩景橋」の交差点として三叉路になっている所らしい。
 
ちょうど東山公園の中心の辺りに位置する。
(画像はYahoo地図・航空写真より引用)



かつての東山ドライブコースは、交差点より東側、道が南へくの字に曲がる先に点線で描かれている。


ここが問題の分岐点。
ここから一般の公道は南(右)に折れ、東山公園から遠ざかってゆきます。

何度道を辿っても着けないはずである。




地図では点線で描かれたかつての東山ドライブコースは現在東山公園の細長い駐車場となっている。
 
緩やかな上り坂、S字になって遠くまで見渡せる。



駐車場の奥まで来ました。



この先、現在は完全に封鎖されていて、車両は入ることが出来ません。

封鎖されている横から徒歩で入ることは出来そうです。
東山動植物園は有料の公園。
もしかするとそのコースを辿るには有料のエリアに入る可能性があるかもしれないので、イザとなったら正門から入場することも計画していたのだが、柵も何もなくどうやらここは有料ではなさそうです。

 




東山公園内には多くの散策路が整備されているが、航空写真では明らかに他の園内散策路とは違ったはっきりとした線で、かつて車道だった痕跡が残っています。



実はこの道を探して、入り口がわからずに付近の道路を彷徨ったことがある。
その時に現道を辿った画像に出口が写っていた。
 
地図で星が丘門の左側、最後にはここに出てくるわけである。


この日はすでに日没、ドライブコースへの侵入をあきらめ、後日チャレンジすることになった。


後日。

地下鉄東山公園駅を降りると動植物園に向けての親切な案内表示が続く。

「ゾウで待つ」
こんなかんじだろうか?

東京で言えばハチ公前とか銀の鈴のノリか?
この場所、東山公園への出口はこの一箇所なので必ず通るはずなのだが・・・。




ここが東山動植物園の正門。

東山公園の周りには一万歩コースという遊歩道が整備されている。
この正門前をスタート地点とし、およそ6キロの遊歩道。
 
今回のドライブコースもこれに含まれるが、この案内表示に従うと逆走になる。
あえて当時車両が通った方向に辿ってみます。



動物園の真ん中を抜ける車道。

木々が茂っていて昼間でも薄暗い。



ちょうど夕方の餌時か、動物達のけたたましい鳴き声が響いていた。

この日は休園日なので客の姿はないが、飼育係の人々は当然休みなしで働いている。
遠くに見えるのは、あまりのうれしさ?に異常興奮するアシカ。



金網越しに見える池にはスワンボートが・・・。

スワンボートは実に平和的な乗り物。
戦闘力0って感じ。
他にちらりとパンダボートやコアラボートも見えた。
かなり無理があるような気がするが・・・。



森の中の道を抜け、ロータリー跡(三叉路)を通り、駐車場の入り口まで来ました。
現道は右に曲がるポイント。

この先一万歩コースは若干の遠回りをして正面の森の中を通ります。
せっかくなのでめたぼ対策に歩いてみますか。
(実は一万歩コースは画像で右方向へも伸びていますが今回は行かず。)

遊歩道は森の中の階段を登り尾根に出る。
登りきったところは眺めのよい休憩ポイントとなっている。
 



昼間でも暗い尾根道を歩く。
 
禁止事項が書かれています。
焚き火や喫煙は禁止されています。
ということは、夜中に懐中電灯を持ってウロウロしてもダメじゃないですよね?



駐車場の上まで来ました。

思いっきりコースと逆です。
この一万歩コースは人気があるらしく、他にも歩いている人、走っている人、たくさんの人々とすれ違いました。
日課にしている人も多いと思われます。



いよいよドライブコース廃道区間突入です。




舗装されたコースに入るといきなり注意看板。

「ガラス片を撒くのはやめてください。危険です。」!?
それは危険だ。
柵を突破して不法侵入する車両に対しての制裁か?




所々道の脇に防火用の貯水タンク(白いヤツ)がある。


道は上り坂、緩やかに左カーブを描いています。

ガードレールや道路標識などはすべて撤去されていて、替わりに歩道用のガードレールがつけられていました。
車道だった当時の痕跡は舗装のみのようです。
車の走らぬ路面には薄っすらと苔が生えていました。
道路幅は普通乗用車がギリギリすれ違える程度、一方通行にしてもこの道を猛スピードで走るにはかなり危険だっただろうに。


ここで左側から合流する道がありました。

すぐに柵があって入れないようになっています。
この柵の奥は東山植物園のはず。
柵の向こうに車が一台。
今でもこのドライブコースは管理道路として使われているのかも知れない。



その先、右カーブが現れました。その後はS字になっています。
 
公園の一番外側を通る道だけに、右側の森の木々の間から周辺の民家の存在が垣間見える。




参考図

ちょうど境界線と重なっている辺りか。



S字を抜けるとしばらくは緩やかな左カーブの道になります。
このコース、曲がってはいるが起伏はあまりない。
もはや車両の通らぬ道には、カラスが悠然と歩いていました。


道は大きく左にカーブします。
調べによると、かつてここは第四コーナーと呼ばれ最も事故の多いポイントだったらしい。

その手前が緩やかなカーブだったゆえに、かなり速度を出していたと思われます。



歩きながら森の外側に目を向けると、この道の外側(右側)にはもう一本の遊歩道が整備されていた形跡がある。
周辺の民家に近いことや崩落の危険から現在は使われていない。
遊歩道の廃道。


もし車で通ったならば、このドライブコースは一分もしないうちに通り過ぎてしまうことだろう。
周りの森の間から見える街の景色、木々の間を抜ける風、すれ違う人々、道の上を悠然と歩く鳩やカラス。
徒歩ならば充分時間をかけて自然を満喫しながら散策することが出来る。



第四コーナーを抜けると緩やかに右カーブが始まる。
徒歩なので緩やかに感じるが車両では先の見えない大きなカーブとして結構不安なカーブに違いない。

 
にしても、同じような写真ばかりだ・・・。
現役時代には随所にガードレールが設置されていたというので、さらに道は狭く感じたと思われます。
そこを猛スピードで走り抜けるのは、かなりの自殺行為だったのではないだろうか・・・。



さらにカーブは続く。



その先に見えてきたのは、右側が広場になった場所。

ベンチがあり、休憩ができるようになっている。
かつてこの場所に売店があったらしい。



その広場の先、森が開けた所は道が大きく沈んでいる。

この不自然に大きな起伏は当時の物ではなく、このちょうど真下に東山公園星が丘門が出来たことにより道の形が変わったらしい。



ここから星が丘の町並みが一望できる。結構絶景。
 



起伏のある地点を過ぎると再び森の中に突入、いきなり舗装が変わった。
なんというか、小石を固めた遊歩道仕様の舗装、これも近年になってのものに違いない。


遊歩道舗装(勝手に命名)は左方向に曲がり、一万歩コースも左から来ている。

かつてのドライブコースは直進、舗装がそう物語る。



最終コーナーと呼ばれる大きなカーブ。

この辺りからはすぐそばを通る車の音がよく聞こえる。
もう現道が間近なのが実感できる。



やがて舗装がコンクリートに変わり道は下りだす。
近くを通る車の音はそこまで迫っている。

 



出口が見えてきました。



出口は現在駐車場になっているが、この道を鋭角に右に曲がると星が丘方向。



出口を振り返って見たところ。


星が丘門からその上方に、さっき通ってきた道が見えている。



というわけで、幻の東山ドライブコース廃道区間、踏破してみました。
嫁曰く、当時の面影はあまり残っておらず、よく覚えていないそうだ・・・。


今では森林浴に最適な遊歩道として整備され、市民に親しまれています。


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