趣味の木工

趣味と実益を兼ねた木工作業の数々

弓の革巻き

これははたして木工と呼んでいいのだろうか?
木の部分を削る作業は一切出てきません。



イタリア人バス弾きから譲り受けたコントラバス弓。



刻印は読みづらいがPENZELと読める。

PENZELと一言で言ってもいろいろある。
目を凝らして確認するとどうもEとMのようなのでもしかすると「EMIL MAX PENZEL」ではないか?
譲り受けた本人にメールで確認するとやはりそれだと思うとの返信があった。

EMIL MAX PENZELは現在のPENZEL社の創始者で戦前の弓でかなり評価が高く現存するのは貴重なものらしい。
フロッシュ部分は新品に交換してあり、残念ながら棹の根元の部分に修理痕があり価値としてはかなり下がるが大事に使えばまだまだ演奏が可能だ。





この弓は譲り受けた時から革巻きの部分がなかった。

この革巻きは本来ならば指があたる部分の保護のため巻かれている。

バイオリン、ビオラ、チェロのようなフランス式の弓ではこの部分に直接指が当たるので、消耗度合いによっては数年に一度巻きなおす必要がある。




そしてこの部分にはもうひとつ役割があり、弓のバランス調整ができる重要な部分でもある。
主に銀線を巻いて、弓全体の重さや重心の位置を調整したりする。
銀線ほどの重さが必要ない場合には絹糸や鯨のひげで装飾をほどこし、見た目と実用を兼ね備えた部分。


上から絹糸、銀線、鯨ひげ(イミテーション)巻き


さて、コントラバス弓にも同じような銀線と革巻きがある。
ドイツ式の弓では革巻きは必要ない(そこに指は当たらない)はずだが装飾の意味もあるのだろう。


どのくらいの銀線を巻くかはバランス次第、あの革の下にどのくらい巻いているのかは見ただけでは判らない。




さて、今回入手したPENZEL弓、以前は何かが巻かれていたような跡があることから、前のオーナはほつれてきたので取ってしまったのか、意図的にこの部分をはずして使っていたのかもしれない。

この革巻きのない状態で弾くと確かに弓先が妙に重く感じ、変わったバランスの弓だと思った。

そんな疑問から、この部分に錘(おもり)を貼り付けて色々な本番で弾いてみたところ、どうやらほんの少し錘を仕込んだほうが安定すると感じたので革巻きをすることにしました。


釣りで使う板おもりを貼り付けて試してみました。





この革巻きは下手にバランスが変わるととてつもなく弾きにくくなってしまうほど弓にとっては大事部分だが、幸い失敗しても弓自体がだめになるような危険な場所ではない。
ある意味安心してチャレンジできる。


すでにある完成した弓を重心操作すると一時的に変わった新鮮さによりよくなった気がすることもあるが、そのほとんどが改悪になってしまうことが多い。


過去にどんな弓が理想の弓か、重さや重心位置を細かく計測したことがある。
弾きやすい弓は重さや重心やバランスなどどこかに決定的な秘密があると思った。
しかし弓の性能は一口で表すのは難しいほど多様で、食いつきや操作性や音色まで含めるとすべてを兼ね備えるのは簡単ではない。
数多くの弓を検証したところ、その数値はバラバラで、決定的な理想値はなかった。

結論として弓としての性能は棹の部分の性能で、パーツや重心操作による違いは確かにあるがそれにより名弓が駄弓になったりその逆になるほどの決定的なものではない、ということがわかった。

ものすごく当たり前のことだ。
鳴らないギターに高い弦をはるようなもの、走らない車に高級なタイヤをはかせるようなもの、その分の性能はよくなるがそこまでしかない。

歴史上数多くの演奏者や製作家が検証してきたことだか、自分でもはっきりと思い知っただけでも満足だ。







いつもの台所に弓が来ました。
さすがに自分の楽器の修理は緊張する。(人のだったら躊躇なくやるくせに)

さて、どんな革を巻こうか?


この黒い革にしようか。


か、かまぼこ板!?

端の部分を処理してゆく。
本職の人はガラス板の上でカットするが、そこまでの設備はないのでふつうのノミでがんばります。

 
キ、キッチンバサミ・・・




ちょうどひと巻き分の長さぎりぎりだった。

接着剤をつけ、決まった巻く方向に合わせぐるりと巻いて貼り付けます。




乾かないうちにヘラで形を整えます。


そのヘラかよ!



と簡単に書いているが、この一連の作業は工程を覚えてからも慣れるまでに随分練習が要る。

手当たりしだい巻きまくって練習した結果。




形を整えて乾燥させたら完成!




新しく入手したり修理調整した楽器は、一度本番を経験しないと信頼できない。
家でいくらでも試し弾きはできるが、ステージ上で本領を発揮しなければ楽器として失格だ。
いや、本来は緊張したり汗をかいたりと演奏者のほうの問題なのだが、ステージ上のあのライトを浴びた環境で演奏者とともに性能を発揮してくれるのが裏切らない楽器、信頼できるMY楽器といえる。



というわけで早速デビュー戦と行きましょか!

この日の本番はベートーベンの第9交響曲。
この曲は綺麗にはねる弓でないとかなりきつい。

ゲネプロ(本番直前のリハーサル)の始まる前に、幾人かのバス弾きに弾いて感想を聞いてみた。

バス弾きはお互いの弓や楽器交換して試し弾きすることは日常多く、これはバイオリンなどのほかの楽器ではあまり見かけない風景。
本来は自分の大切な楽器や弓を他人に触られることは極力避けたいがコントラバスの場合その人柄かお互いの楽器や弓に興味があるのか、演奏者同士で交換して弾き比べることもよくある。
仕事先で楽団の楽器をお借りしたりして、自分以外の楽器に触れる機会が多いからなのかもしれない。




はねた時に若干ではあるが弓が暴れるので、革巻きの根元部分に少しだけ錘をつけたほうが安定することがわかった。


再び板おもりを貼り付けた。

確かに綺麗に飛ぶ。
しかしこの場合弓全体が重すぎ、ピチカートの時に支える小指の負担が大きく違和感がある。




今回の革巻きはまずまずのの出来だったが、更なる改良が必要なこともわかった。

はっきりとどこをどれくらい重くすればよいのか判ったので、バランスはそのままで革巻き自体もう少し軽くして巻きなおすとしようか。


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