趣味の木工

趣味と実益を兼ねた木工作業の数々

ウクレレのブリッジが飛んだ2


弟子の一人から連絡がありました。
なんでも、ついこの前買ったウクレレから不吉な音がしたのでケースを開けてみたら、弦が全部外れていたとか。

どうもブリッジが飛んだらしい。


突然のハプニングに、本人は事情がわからず大慌ての様子だが、ブリッジが飛ぶことはそんなに珍しいことではない
接着している部分はどんな箇所も長い目で見れば多かれ少なかれ剥がれてくる上、ブリッジという部分はもともと絶えず剥がれようと力がかかっているパーツ。
元通り接着さえすれば全く遜色なく使用が可能な場所である。

とは言え、何も知らずに起これば、それは慌てるだろうな・・・。

電話だけではどんな様子かはわからないので一目見るまで心配である。




見事にぶっ飛んでおりました。



実は、きれいにぶっ飛んでいればいるほど修理は易しい。
製作時の接着が不十分だったり、接着剤やニカワが溶けるような苛酷な環境で剥がれた場合、接着剤の部分で分断されるので表板もブリッジも無傷でぶっ飛ぶ。
この場合は古い接着剤を除去して再び元の位置に貼ればOK。

厄介なのは、強力に接着されていたものが強い力によって剥ぎ取られた場合、柔らかいトップ材が引きはがされて、破片がブリッジ側に持ってかれてしまうことがある。
少量ならばそのまま貼り付けが可能だが、面積が大きい場合は慎重に剥がし、破片をパズルのように戻さなければならない。
それでも破片がブリッジの真下だけなら、接着箇所はブリッジの下に隠れてしまうのでまったく痕跡を残さずに修理することが出来る。
最悪なのは、弦に引っ張られた勢いでブリッジからサウンドホール側の表板まで引きちぎって持っていってしまった場合。
無傷での修理は困難になる。




ここまできれいに飛んでいれば、修理は困難ではない。


ちょっと安心。




中西ウクレレ製、マーチンエンプロイモデルのコピー。
 

ソプラノ3型K(コア)相当。

 
いいコア材を使っています。

画像サイズの問題かディスプレイの解像度の関係か、3型のモデルは縁の細いバインディングがきれいに表示されない・・・。
テレビ業界でも細かい縞模様の服で写るのは御法度とされているのと同じような物か?
(テレビ画面に映るとチラチラと虹色が出てしまうため)




マーチン・エンプロイ(employee)モデル・・・マーチン社で働く従業員が唯一許された、自分仕様の楽器。

マーチンの刻印が打たれているが、当然その数はごくごくわずかで、同じ物は二つとない貴重なモデル。



そんな楽器は驚くほどのプレミアが付いていて入手も困難を極める。
そんな貴重なウクレレを、国内の熱心なコレクターが所有していて、中西ウクレレに修理の依頼がきたそうです。


マーチンエンプロイモデル(実物)。

3型M(マホガニー)をベースにヘッドロゴやポジションドットが凝っている。
塗装は塗り替える為に持ち主が「やってまった」らしい。






それを中西さんがちゃっかりコピーしてしまったというモデル。
忠実なコピーと言うより、エンプロイモデルのデザインをベースに様々なパーツを合体させたオリジナルモデルを開発。
本来このエンプロイモデルにはごく普通のブリッジが付いているはずだが、黒檀製のブリッジがつけられている。

中西工房でも後期の作で製作本数も少ない珍しい楽器。





これはニカワではなく木工用の接着剤。
幸い、表板もブリッジ側も全く無傷でした。



慎重に下地処理をします。
残った接着剤をスクレーパーで丁寧に剥いでゆきます。


表板側にはほとんど残っていなかったのでほとんど削る必要はなかった。




ブリッジ側に残った接着剤を除去。かなりたくさんついていたのでやすりで削りました。
表板側もブリッジ側も、慎重に接着剤だけを除去、木の地肌が露出している状態にします。

 

この下地処理が不十分だと後々、同じようなトラブルに見舞われる危険が高くなるのできっちりやっておく必要があります。





接着する前にきちんと平面が出ているか点検します。
隙間を無理やり押さえつけて貼るのではなく、乗せただけで隙間なく密着しているか、光を当てて確かめます。

表板のブリッジが付けられていた跡の縁の部分には、若干の塗装による盛り上がりが出来ています。
この塗装の端の部分は均さずに残しておきました。
こうしておくことで寸分狂いなく元の位置に貼り付けることが可能。



いよいよ接着。

 



はみ出は部分を除去。
ニカワでないので固まる前に行います。


ここで念のためスケール(弦長)のチェック。
ブリッジが正しい位置に取り付けられているか確かめます。


マーチンのソプラノウクレレの弦長は13.614インチ。
1インチ=0.0254mなのでおよそ345.8mm。


OK!


違っていても治しようがないんだけどね・・・。
確かこの楽器は音程の狂いはなかったので、位置の修正の必要はなかったはず。
そのまま元の位置に貼れればOK。

乗せておくだけで密着しているので、そんなに圧力をかける必要はありませんが、軽く重しをしておきます。


こ、国語辞典・・・。



このまま一晩放置。



完全に乾いたら、はみ出た部分の残りの接着剤をきれいに拭き取って、弦を張って完成。
 

このタイプ(クラシックギターと同様の弦を結ぶタイプ)のブリッジは弦の結び方に要注意。
結び方が緩くて弦を張ってゆく段階でほどけてくると、弦の端が勢いよく表板に当たり傷をつけてしまう恐れがあるので、緩まないようにしっかり絡げておく。



ウクレレのナイロン弦は一度張ったものを緩めて外すと、折れ曲がりクセがついて次に上手く止まらないこともある。
幸い問題なく止まりました。
ただ、ナットやフレットの跡がついてしまっているので、本当は新品の弦に換えてしまうべきなのでしょうけども。

にしても、いい材(ぜゃー)を使っている。
ちょっとコアの楽器が欲しくなってしまった・・。


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